入力速度

仮名入力が、ロマかなよりも高速で入力できる場合があるとすれば、入力する文章と配列が上手く噛み合って、「ワンアクション1.5かな」が高確率で実現できるとき、だろうか。
「ワンアクション1.5かな」とはつまり、ひとつのキーの打鍵を終えるときには、すでに次の指が打鍵の準備ができている/もう動き始めている、ということで。特に厳密に1.5という数字にこだわるわけではない。この条件を阻害するのは、①同指連打のばあいと、あとは、②異段&異指のシーケンスでも、キーボードの物理配列の制約によって指どうしが干渉して互いの指の動きを妨げ合うばあい、が取り敢えず思い付くところ。
①は分かりやすい話で、例えば「はかま」とか「いしき」とか、同じ母音が連続する場合、同じ母音が同指連打にならざるをえないロマかなでは、幾ら音節のアルペジオ打鍵のスピードをあげたところで、どうしても3アクション+αが必要で、幾ら一次元的にスピードをあげようにも限界があるから、例えばNICOLAが「1かな2/3アクションx3=2アクション」ですむのには、どうしたって敵わない。
②は、特定の論理配列に限った話ではないので、論理配列間の優劣は少ない。標準的なキーボード&qwertyロマかなでこれが顕著に現れるのは、BEとかZEとかMIの場合*1

これらの点についていうと、打鍵数を減らせる親指シフトでも、不利な点をいくつか抱えている。例えば、NICOLAのような逐次シフトでは、親指の同指連打の割合が増える。ふつう、親指は疲れにくいけれど鈍い、という特徴を持つので、同指連打によるマイナス効果は、他の指に比べて大きい。また、親指を上手く独立的につかえる位置に親指キーが無ければ、手全体への干渉は大きくなり、非親指シフト系よりも②の点での欠点は大きくなる。
また親指シフトのばあい、いわゆる「左右交互打鍵」ということについても、非親指シフトと同様に語ることは出来ない。4指部分が左右交互であっても、親指だけは同指連打、ということが、結構あると思うからである。ex)「れば」「ので」「まだ」「わざわざ」など(NICOLA)。
「左右交互」ということで言えば、例えばM式のようなほぼ完全な左右交互を目指したものを考えても、それだけで単純に入力速度を語ることは出来ない、ともいえる。例えば、ピアノでトリルを奏することを例にとると、片手で2本の指を用いて奏するのに比べて、右手と左手とに分割してそれをずらしつつシンクロさせながら奏するのでは、特に速度があがるほど、明らかに後者の難度の方が高くなる。また、筋操作は、単純な操作の繰り返しがある程度の速度に及ぶと、意図を無視した運動の自動化が生じて、コントロールは難しくなり、これを克服するには特殊な訓練が必要になろう。左右交互打鍵の場合、潜在的には超高速の打鍵が可能であると考えられても、それを実現する人間の機能の限界を考えると、1アクションの速度には、自ずと制限が生まれると考えて良い*2
親指シフトの「入力速度」に関して云々するならば、こうした事柄も考慮に入れる必要がある、というメモ。親指シフトの場合、確かに打鍵数は少なくて済むものの、同時打鍵という制約の下で、動きの鈍い親指が打鍵速度における限定要因になる場合も多いため、一打にかかる時間は、平均して非親指シフトに比べて長くなると考えられる。この場合、「1かなあたりの打鍵数×一打にかかる時間」が、結果的にあまり変わらない、ということも十分にあり得る。そうなれば、親指シフトがロマ仮名に比べて早く入力できるのは、親指の同指連打が起こらない部分に限る、ということになる。
あれやこれやで、結局、速度については単純な比較は難しく、「向き不向き」といったような個人的な素質に負う部分が、大きな決定要因として現れるのだろう*3

*1:19㎜ピッチのキーボードが好まれる合理的な理由としては、この点を擬似的に解決できるから、というのが考えられる。実際、16㎜ピッチのキーボードを使っているとこの問題点は顕著に現れて、右手には何の問題も無くても、これらのシーケンス、さらにはRAとかSEとかでも、無理な動きとして感じられる。

*2:もちろん、そうした超高速打鍵が可能な例外的な事例も生まれるだろうが、日常的に見られる人間の平均的な能力のことを考えると、あくまで例外的なものにとどまるのではないかと思う

*3:私の場合、a.各指の独立した操作には割と長けているが、b.それぞれの指の反復運動能力はそれほど高くなく、c.筋力も弱く疲れやすい、などの条件から、各指や筋肉の強さに応じて幅広くイーブンに使う親指が向いている、という自己分析をしている