これは

truly ergonomic keyboard
http://www.trulyergonomic.com/
一言でいうと、「何で他はこうしないの?」、てぐらい、「アッタリマエ」のキーボード。フツーに考えたら、こうなるだろう、ていう。以前にも触れた、M式キーボードhttp://121ware.com/apinfo1/content/mworld/P2-1.htmと、基本的な発想は全く同じと言っていいかと。
あとは、指どうしが衝突する心配がないから、キーピッチがもう少し小さくても、てのと、それから、もっと親指を使う発想をふんだんにとり入れて設計がされてたら、完璧・・・・・・と言いたいが、実は論難したい点もあり。それは、「指の長さに合わせた山なり配置」で、M式についても思っていたこと。 「発想としてはアッタリマエ」故に生まれる罠、と言ってもいい。人間工学とかによくありがちなことだが、あまり「運動」という観点が組み込まれていないと思えるのである。静的な形状として見てみると、実に合理的にみえる。しかし、以下の2点を考えると、どうか。
①人間の手は、中指と薬指の曲がりに対して、人差し指と薬指はそれよりも曲がりが少ないのが自然。
「菩薩の拳」なんていうと判る人には判るが、この樣な形というのが、人間の手にはもっとも負担が少ない。甲野善紀氏あたりの著作などに親しんでいるものには、ごく当たり前の知識である。(手首から先の力を抜いて、いろんな方向にぶらぶらさせてみれば、常に勝手にそのように指が動くのを、簡単に確認できる。)中指・薬指は、人差指・小指と同じ程度に伸ばしているだけでストレスが生まれるし、逆に、人差指・小指は、中指・小指と同じ程度に巻き込むだけでストレスが生じる。
また、手を楽な状態にしたとき、各指先を結んでできる直線の平均の傾きは、前腕の軸に対して、直交しない。これを、くるっ、と裏返して、身体に正対した水平面上に置くと、大体各指先は直線上に並ぶ。その状態でそれぞれの指を動かした軌道にキーを配置すると、山なり配置よりは、μTRON式の各段の左右位置が少しずれた各指直線の配置が出来上がる。
②人差し指は、伸びていればこそ、手全体に干渉せずに、左右に広げて使うことが出来る。
特に弦楽器をやっている人間は常に感じている事だと思うが、人差し指や小指の間を広げるのは比較的易しいが、中指と薬指の間というのは、基本的にストレッチは不可能である。これは、「薬指が不器用だから」という運動機能的な問題ではなく、「指を曲げるほど、指先はヒンジ(この場合は付け根関節)、つまり回転の中心に近づくから、円周軌道上の距離は短くなる」という、純粋に形態的な要請の問題である。つまり、キーボードの場合であっても、人差し指を少し伸ばし気味に使うような構造にすることで、他の指への干渉を最小限に抑えたまま、ストレッチトポジションでの打鍵が可能になる。(数字段キーで中指と薬指が大活躍するのも、全く同じ理由による。)

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こういう点を考えると、こちら

椅子と日本人のからだ

椅子と日本人のからだ

で著者が指摘している、「人間工学」ならぬ「寸法工学」の弊を、まだまだ免れていないと思う、などと独断で言っておく。
ただし、「大体において各指の動きが干渉しない」という点で非常に優れているだろうな、という点では、現行のなんちゃってエルゴとは一線を画している、という感想は変わらない。

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